政府の姿勢・取組

拉致問題に関する事実調査チームの調査結果

拉致問題に関する事実調査チームは、9月28日(土)から10月1日(火)までの間、平壌を訪れ、拉致問題に関する事実調査を行ったところ、概要は以下のとおり。

1.今回の調査の全般的評価

今回の調査においては、北朝鮮側は、現段階で可能な限りの情報を提供するとの態度で臨み、調査団としても、北朝鮮当局側からの聞き取りに加え、生存者及び関係者との面会、墓地の訪問等可能な限りの調査活動を行った。この結果、生存されている5人につき、拉致被害者本人と判断して差し支えないとの結論に達した。死亡したとされる方についても、北朝鮮側より説明を聞き、関連情報の収集に努めたが、死亡を特定するには更なる具体的な情報が必要であると考えており、北朝鮮側も更に調査を継続するとしている。今後とも北朝鮮に真相解明を強く求めていくこととしている。

2.北朝鮮政府からの事実関係説明

北朝鮮外務省マ・チョルス・アジア局長より、一部我が方からの質問に答える形で、概要以下のとおりの説明があった。

(1)情報提供に当たっての原則

  1. (イ)本人拉致事件につき、9月17日の首脳会談で基本的説明を行い、遺憾の意とお詫びを表明し、再発防止を約束した。
    なお、日本国内で北朝鮮当局によって拉致されたことが明らかになった朝鮮籍の拉致被害者1件2名については、拉致は国籍に拘らず重大な人権侵害であり、同時に、我が国の主権侵害にあたることから、北朝鮮側に対し、原状回復として被害者を我が国に戻すことを求めるとともに、同事案に関する真相究明を求めている。
  2. (ロ)我々としては、平壌宣言を誠実に履行する確固とした意志を持っており、拉致問題につき可能な限り十分に情報を提供するために最善を尽くす用意がある。
  3. (ハ)但し、現在、日朝間に国交がないため、法律上の協力に関しての協定もなく、日本側の調査に協力する法的根拠がない状態で取り扱っていることに対する理解を求める。

(2)調査経緯

  1. (イ)これまで朝鮮赤十字会の主管の下で、日本人行方不明者の消息調査が断続的に行われてきた。しかしこの事業は、当時の日朝間の雰囲気の影響を少なからず受けたし、また、日朝関係の悪化とともに低調になっていた。
  2. (ロ)2002年3月、朝鮮赤十字会は日本人行方不明者に対する調査を再開し、政府も協力した。最近の一連の日朝間の接触および会談により、日朝関係が成熟し、日朝関係改善への日本の意図を真摯なものと評価し、それにふさわしい誠意を示すべきと考えた。
  3. (ハ)8月はじめ、共和国国防委員会指導部の指示により、特別調査委員会が設置され、これまでをはるかに上回る最大規模の全面的な調査が行われた。結果は9月16日に集計され、安否については17日に伝えたとおりである。本日は、特別調査委員会の委任により追加情報を提供する。

(3)事件の背景と関係者の処罰

  1. (イ)1977年11月15日に発生した横田めぐみさん拉致事件を契機に、機関内の一部部署で日本人成人を連れて来て工作員に日本語教育、身分隠しに利用する提起がなされ、恣意的に拉致が行われた。
  2. (ロ)1978年6月から1980年6月まで、特殊機関の一部部署により日本で成人男女9人が連れてこられた。1980年初め頃、他の特殊機関の一部の部署もこの事実を知り、自分たちでも連れてくる工作を勝手に行った。しかしながら、当該部署は、当初日本に工作ルートがなかったので、1980年6月から1983年7月にかけて欧州で成人男女3人を連れてきた。こうして総計13人の日本人を連れてきた。うち7人は、工作員による拉致、1人は請負業者によるもの、残る5人は本人の同意の下に連れてきた。
  3. (ハ)この事件の責任者であるチャン・ボンリム及びキム・ソンチョルは、1998年、職権濫用を含む6件の容疑で裁判にかけられた。チャンは死刑、キムは15年の長期教化刑に処せられた。

(4)その後、我が方からの質問を受け、マ・チョルス局長より、個々の被害者について、拉致の経緯、その後の生活状況、家族関係、死亡経緯、遺品の存否等につき説明があった。

(5)また、全般に関わる話として、以下の説明があった。

  1. (イ)死亡証明書は各死亡者について存在する(死亡者について死亡証明書の写しが提出された)。
  2. (ロ)ほとんどは所帯別の生活をしており、各々別個の招待所で生活していた。
  3. (ハ)結婚登録申請書は存在する(結婚している方々につき、結婚登録申請書の写しが提出された)。
  4. (ニ)日本人は入国後、朝鮮語の学習とともに、北朝鮮情勢につき理解するため、現実体験、現実研究を行った。

(6)我が方より、北朝鮮側説明に対し詳細な質問を行ったが、その中にはすぐには回答できないというものもあり、我が方よりは更なる調査と回答を強く求めた。

3.生存しているとされる方々に関する調査

  1. (1)生存しているとされている5名の方々と面会し、拉致された当時の状況、北朝鮮における生活状況等につき聴取した。その結果、身体特徴及びご家族と本人の証言の比較等から、5名が拉致被害者であると判断して差し支えないものと考えられる。今後、持ち帰ってきた科学的データの分析を行うこととしている。
  2. (2)また、横田めぐみさんの娘とされる少女とも面会し、種々の情報を入手した。今後、さらに血液、毛髪等の科学的データの分析結果等を踏まえて最終的に確認することとする。
  3. (3)なお、5人につき、それぞれ帰国希望を聴取したところ、日本にいるご親族との早期面会の強い希望はあるものの、北朝鮮で生まれ育った子供に配慮して、総じて早期帰国に関しては慎重であった。

4.死亡したとされる方についての調査

死亡されたとされる方の死亡日及び死亡理由につき、北朝鮮側から具体的な説明があった。死亡理由は、事故死、病死等とのことであった。死亡したとされる方の一部については、先方より提示のあった墓地跡の位置を地図上で確認の上、その一部につき実際に訪問した。ご遺骨が特定されているとの説明があった方については、本人のものと特定できる十分な根拠はなかったが、鑑定のためご遺骨を持ち帰った。(注)また、被害者の目撃者から一部被害者の生活状況等について事情聴取するとともに、被害者の一人につき、病院の主治医から死亡の経緯等につき説明を聴取した。
 現在、関連文書の提出を含め、更に詳細な情報提供を北朝鮮側に強く求めている。

(注)松木薫さんのものと思われるとして提供を受けた「遺骨」については、法医学的鑑定の結果、別人のものであることが確認された。

5.今後の進め方

今後の進め方につき、北朝鮮側は、以下のとおり確認した。

  1. (イ)今後とも、日朝平壌宣言及び日朝首脳会談の合意に従い、拉致問題の真相解明のために全面的に協力する。
  2. (ロ)死亡されたとされる方については、死亡された状況についてより客観的な情報を提供できるよう、更に調査を続ける。
  3. (ハ)生存されているとされる方については、本人の希望をふまえ、家族を含めて、できるだけ早期に帰国を実現させるべく最大限努力することとする。具体的な帰国時期については、今後双方で調整することとする。また、日本にいる家族等が訪朝を希望する場合は、可能な限り便宜を図ることとする。

(了)