小泉内閣メールマガジン第80号(2003/01/30)に掲載

北朝鮮はNPT脱退など核開発の脅威をかざし、その動向は目の離せない状況になっています。しかし、このような緊迫した状況の中でも、拉致問題を疎かにせず、真剣に取り組むことは政府の責任であると思います。

拉致された人々は、世界で最も安全であると考えられていた日本に、安心しきって住んでいて被害に会い、24年間、怯えながら苦難の生活を送ってきました。日本では家族の方々がそれぞれ娘や息子の生死も分からぬまま、苦しい思いの中でその救出を政府に懇願し、世の人々に訴え続けてきました。

日本人が拉致されたとき、救出に当たるのは当然のことながら日本政府の役割です。国民の生命と安全を守ることは国家としての最も基本的な役割です。

昨年10月15日、拉致された5人が帰国しました。「お帰りなさい。」と暖かく迎えられたことがどれほど嬉しかったか計り知れません。10月24日、政府は「5人は今後とも日本に滞在していただき、また現地に残っている家族の身の安全を確保し、その帰国日程の確定を北朝鮮に対し強く求めていくこととする」との方針を決定しました。「併せて、生存が確認されていない拉致被害者の方々についての事実解明も強く求めていくこと」を決定しました。やっと日本政府がこの拉致事件を、自らの問題として扱い、当事者となって拉致された者の救出にあたることが明確に示されました。この決定に先立ち5人の方々からは日本に残って家族を待ちたいとの連絡を頂いていましたが、本人や家族の希望の結果としてではなく、政府の判断として、帰国した5人の滞在を延長するというのが、この方針決定に拘わった関係者の一致した意見でした。

今後最も大切なことは、日本の人々が、拉致問題に対し引き続き関心を寄せ、意見を述べ、この問題に係わっていくことであると考えています。北朝鮮との交渉は政府が行ないますが、交渉が成功するためには、日本の一般の方々の拉致問題の解決に対する関心と、政府に対する支持が必須です。

日朝関係の改善と協力の推進は、北朝鮮、日本双方に対して大きな利益をもたらすことになるでしょう。対話を通じて、核を含む安全保障上の問題や国交正常化に向けた懸案の解決に取り組むことが重要です。そして、懸案の中でも、拉致問題については、これを棚上げにして日朝国交正常化はありえないこと、拉致被害者及びその家族の生命を交渉のカードにすることは無意味であることを北朝鮮に理解してもらう必要があります。

北朝鮮に残っている家族達が日本の土を踏み再会が果たせますように。また消息不明の方々に関する情報が包み隠さず提供され、生存者が家族ぐるみで帰国できますように。時間はかかるかも知れませんが、一丸となって要求していくしかありません。

こうした問題が解決すれば、北朝鮮が豊かになるための協力、日朝間に友好的な関係が築かれるための協力を、日本人であれば誰もが惜しまないことでしょう。