北朝鮮による拉致問題とは

詳細な説明

平成28年7月/拉致問題対策本部

平成14年9月17日、平壌で行われた日朝首脳会談で、北朝鮮側は長年否定していた日本人の拉致を初めて認め、謝罪し、再発の防止を約束した。現在、日本政府は17名の日本人を北朝鮮による拉致被害者として認定しており(別添参照) 、そのうち5名については、平成14年10月15日に24年ぶりの帰国が実現した(御家族については、平成16年5月及び7月にそれぞれ帰国・来日)。残りの安否不明の方々については、平成16年5月22日の第2回日朝首脳会談において、北朝鮮側より、直ちに真相究明のための徹底した調査を再開する旨の明言があったにもかかわらず、長い間、北朝鮮より納得のいく説明がなされないままだった。

 
その後、平成26年5月の日朝政府間協議において、北朝鮮側は拉致被害者及び拉致の可能性を排除できない行方不明者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査を行う旨を表明し、同年7月、特別調査委員会を立ち上げて調査を開始した。

 日本政府は、従来より、「拉致問題は我が国の国家主権及び国民の生命と安全に関わる重大な問題であり、その解決なくしては北朝鮮との国交正常化はあり得ない」との方針の下、北朝鮮側より納得のいく説明や証拠の提示がない以上、安否不明の拉致被害者が全て生存しているとの前提に立ち、北朝鮮側に対し、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての被害者の安全確保及び即時帰国、真相究明並びに拉致実行犯の引渡しを強く要求してきた。政府としては、今後も引き続き、今般の北朝鮮による調査が全ての拉致被害者の帰国につながるよう、あらゆる機会を捉えて北朝鮮側に強く求めていく考えである。

なお、北朝鮮側は、これまで累次にわたり、日本は拉致問題に固執して過去の清算を回避している旨主張しているが、日本政府としては、これまで繰り返し明らかにしてきたとおり、不幸な過去の清算については日朝平壌宣言に従って誠実に取り組んでいくとの立場であり、こうした北朝鮮側の主張を受け入れることはできない。日本政府は、引き続き、北朝鮮側に対し、日朝関係改善のためには拉致問題の解決が不可欠であるということを強調しつつ、拉致問題の解決に向けた決断を早急に下し、具体的な行動を速やかにとるよう強く求めていく。

  1. 1.背景
  2. 2.拉致問題をめぐる日朝間のやりとり
  3. 3.国際社会における動き
  4. 4.国内における取組み状況

1.背景

1970年代から1980年代にかけ、多くの日本人が不自然な形で行方不明となったが、日本の当局による捜査や、亡命北朝鮮工作員の証言により、これらの事件の多くは北朝鮮による拉致の疑いが濃厚であることが明らかになった。平成3年以来、政府は、機会あるごとに北朝鮮に対して拉致問題を提起したが、北朝鮮側は頑なに否定しつづけ、平成14年9月の日朝首脳会談においてようやく初めて拉致を認めるに至った。

北朝鮮が拉致という未曾有の国家的犯罪行為を行った背景には、工作員による日本人への身分の偽装、工作員を日本人にしたてるための教育係としての利用、北朝鮮に匿われている「よど号」グループ(注1)による人材獲得、といった理由があったとみられる(注2)。日本政府はこれまでに17名を北朝鮮当局による拉致被害者として認定しているが、このほかにも拉致の可能性を排除できない者がいるとの認識の下、所要の捜査・調査を進めている。こうした捜査・調査の結果、これまで、日本国内における日本人以外(朝鮮籍)の拉致容疑事案や海外において拉致された可能性のある者の存在も明らかになっている(下記3(1)(ハ)及び4(1)(イ)参照)。

なお、日本国内では、平成9年に拉致被害者の御家族により「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」が結成される等、被害者の救出を求める運動が活発に展開され、平成28年5月現在、総理大臣宛に提出された署名は1,160万筆を超えた。

(注1)昭和45年3月31日、日本航空351便(通称「よど号」)をハイジャックした犯人とその家族等の総称。

(注2)拉致の理由については、平成14年9月の第1回日朝首脳会談において 、金正日(キム・ジョンイル)国防委員長(当時)から、「一つは特殊機関で日本語の学習ができるようにする ため、二つ目は、他人の身分を利用して南に入るためである」との説明があった 。

2.拉致問題をめぐる日朝間のやりとり

(1)政府間協議等

(イ)第1回日朝首脳会談(平成14年9月)

  1. (a)平成14年9月17日平壌での日朝首脳会談において北朝鮮の金正日国防委員長(当時)は、長年否定していた日本人の拉致を初めて認めて謝罪し、その時点で日本政府として調査を求めていた拉致被害者13名のうち4名は生存、8名は死亡、1名は北朝鮮入境が確認できない旨伝えた。また、調査依頼をしていなかった1名について拉致を認め、その生存を確認した(他方、その後の調査で北朝鮮側は、同時に行方不明となった同人の母親については、入境の事実はない旨主張)。その上で、関係者は処罰されたとしつつ、再発防止を約束すると同時に、家族の面会及び帰国への便宜を保証すると約束した。
     これに対し、小泉純一郎総理(当時)は、金正日国防委員長(当時)に対し強く抗議し、継続調査、生存者の帰国、再発防止を要求した
  2. (b)北朝鮮外務省のスポークスマンは、同日、拉致事件に関する談話を発表し、北朝鮮側として被害者の帰国のための必要な措置をとる用意があることを明らかにした。

(ロ)事実調査チームの派遣(平成14年9月~10月)

  1. (a)平成14年9月28日から10月1日にかけて、政府派遣による事実調査チームが平壌にて生存者と面会するとともに、安否未確認の方についての情報収集に努めた。しかし、北朝鮮提供の情報はそもそも限られている上、内容的にも一貫性に欠け、疑わしい点が多々含まれていた。特に、松木薫さんのものと思われるとして提供を受けた「遺骨」については、法医学的鑑定の結果、別人のものであることが確認された。
  2. (b)同年10月29日~30日にクアラルンプールで開催された第12回日朝国交正常化交渉においても、政府は、150項目にわたる疑問点の指摘と同時にさらなる情報提供を要求したが、北朝鮮側からのまとまった回答はなかっ

(ハ)5人の被害者の帰国(平成14年10月)

日本政府からの要求に応じて、平成14年10月15日、拉致被害者5名(地村保志さん・富貴惠さん、蓮池薫さん・祐木子さん、曽我ひとみさん)が帰国し、家族との再会を果たした。

日本政府は、これら拉致被害者が、北朝鮮に残してきた家族も含めて自由な意思決定を行い得る環境の設定が必要であるとの判断の下、同年10月24日、5名の拉致被害者が日本に引き続き残ること、また、北朝鮮に対して、北朝鮮に残っている家族の安全確保及び帰国日程の早急な確定を強く求める方針を発表した。

その後、特にこれら家族の帰国及び安否不明の拉致被害者に関する真相究明が日朝間の重大な懸案となり、協議されてきた。

(ニ)第2回日朝首脳会談(平成16年5月)

平成16年5月22日、第1回日朝首脳会談後に署名された日朝平壌宣言を履行していく考えを改めて確認し、日朝間の信頼関係の回復を図るため、小泉総理(当時)が再度訪朝し、拉致問題をはじめとする日朝間の問題や核、ミサイルといった北東アジア地域の平和と安定にかかわる安全保障上の問題等につき議論が行われた。拉致問題に関連しては、この会談を通じ、以下の諸点が両首脳間で申し合わされた。

  • 北朝鮮側は、地村保志さん・富貴惠さんの御家族、蓮池薫さん・祐木子さんの御家族、計5名が、同日、日本に帰国することに同意する。(曽我ひとみさんの御家族3名については、総理から直接1時間にわたり、来日を強く働きかけたものの、同日の来日は実現せず、その後7月18日に帰国・来日が実現した。)
  • 安否不明の拉致被害者の方々について、北朝鮮側が、直ちに真相究明のための調査を白紙の状態から再開する。

(ホ)日朝実務者協議(平成16年8月、9月、11月)

  1. (a)平成16年8月11日~12日(第1回)及び9月25日~26日(第2回)、北京において日朝実務者協議が開催され、北朝鮮側より、安否不明者に関する再調査の途中経過が提供されたが、情報の裏付けとなる具体的な証拠や資料の提供がなく不十分なものであった。
  2. (b)上記のやりとりを踏まえ、第3回日朝実務者協議が平成16年11月9日より14日まで平壌にて開催された。同協議では、「調査委員会」との質疑応答の他、合計16名の「証人」からの直接の聴取、さらには拉致に関係する施設等に対する現地視察も行われた。
     また、第3回協議では、拉致の可能性を排除できない行方不明者(いわゆる「特定失踪者」等)の問題について、北朝鮮側に対し5名の氏名を示して関連情報の提供を求めるとともに、日本側からの指摘の有無にかかわらず、日本人拉致問題に関し更なる情報がある場合には速やかに提供するよう重ねて申し入れたが、北朝鮮側からは、当該5名について入境は確認できなかったと回答があった。
  3. (c)日本政府は直ちに、第3回日朝実務者協議において北朝鮮側より提示のあった情報及び物的証拠に対する精査を実施し、その結果を12月24日に対外公表した。また、翌25日、北朝鮮側に対し、以下の内容を口頭及び書面で申し入れた。併せて、精査結果概要及び横田めぐみさんの「遺骨」とされたものの鑑定結果要旨を手交した。
    • 第3回日朝実務者協議を通じて得た情報・物証につき、「8名は死亡、2名は入境確認せず」との北朝鮮側説明を裏付けるものはなかった。この説明は受け入れられるものではなく、誠意を欠く対応に強く抗議する。
    • これまでに提供された情報・物証では、安否不明の拉致被害者に関する真相を究明するためには全く不十分と言わざるを得ず、「白紙」に戻しての徹底した調査と呼べるものではない。多くの疑問点があり、また、横田めぐみさんの「遺骨」とされた骨の一部からは、同人のものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結果を得た。
    • 安否不明の拉致被害者に関する真相究明を一刻も早く行うとともに、生存者は直ちに帰国させるよう強く要求する。迅速かつ誠意ある対応がない場合には、我が方として厳しい対応をとる方針である。
  4. (d)平成17年1月26日、北朝鮮側より、横田めぐみさんの「遺骨」とされた骨片に関する日本側鑑定結果に関する考え方を含む北朝鮮の1月24日付「備忘録」が我が方に伝達されるとともに、本件骨片の返還要求があった。これに対し、我が方よりは、2月10日、北朝鮮側「備忘録」に対する反論を伝達し、改めて生存する拉致被害者の即時帰国と真相究明を強く要求した。その後も、2月24日、4月13日に北朝鮮側より同様の内容が伝達されたことから、我が方より、改めて鑑定結果の客観性、科学性に言及しつつ反論した。

(ヘ)日朝包括並行協議(平成18年2月)

平成18年2月4日~8日、北京において、拉致問題、核・ミサイル問題、国交正常化の問題を包括的に話し合う日朝包括並行協議が開催された。拉致問題に関する協議は合計約11時間にわたり、我が方より改めて、生存者の帰国、真相究明を目指した再調査の約束、拉致実行犯の引渡しを強く要求した。
 これに対し、北朝鮮側は、「生存者は既にすべて帰国した」旨のこれまで同様の説明を繰り返した。真相究明については、これまで誠意を持って努力した、調査した事実をそのまま回答している旨主張し、安否不明者の再調査継続すら約束しなかった。また、拉致実行犯の引渡しについては、政治的問題である等の主張を行い、引渡しを拒否した。
 このように、北朝鮮側からは、拉致問題の解決に向けた具体的進展は何ら示されなかった。加えて、脱北者支援活動を行う邦人等7名について、北朝鮮国内法に違反する旨の主張を行い、その引渡し等を要求してきた。

(ト)日朝国交正常化のための作業部会(平成19年3月、9月)

平成19年2月の六者会合において設置に合意された「日朝国交正常化のための作業部会」の第1回会合が、同年3月7日~8日ハノイにおいて開催された。同会合において、我が方より、改めて、全ての拉致被害者及びその家族の安全確保と速やかな帰国、真相究明、拉致実行犯の引渡しを要求したが、北朝鮮側は、「拉致問題は解決済み」との従来の立場を繰り返すのみならず、我が国の北朝鮮に対する「経済制裁」の解除を求めるなど、拉致問題の解決に向けた誠意ある対応は示されなかった。9月5日~6日にはウランバートルにて第2回会合が開催され、日朝平壌宣言に則り、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決して国交正常化を早期に実現するため、日朝双方が誠実に努力すること、このための具体的な行動につき協議し、精力的な協議を通じ具体的行動を実施していくことに合意したものの、拉致問題については何ら進展は得られなかった。

なお、両会合の間にあたる7月20日、北朝鮮側が拉致問題における我が方の対応を非難しつつ「拉致問題は終結した」とする「外務省備忘録」を発表したことから、我が方は、同月25日、外務省報道発表を通じ、同備忘録を受け入れることは全くできない旨反論した。

(チ)日朝実務者協議(平成20年6月、8月)

  1. (a)平成20年6月11日~12日、北京において「日朝実務者協議」が開催された。同協議では、拉致問題や不幸な過去の清算等の問題につきお互いの立場を改めて主張し、特に、拉致問題については、両団長間で真剣かつ突っ込んだ折衝が行われた。
    その結果、北朝鮮側は、「拉致問題は解決済み」との従来の立場を変更して拉致問題の再調査を実施するとともに、「よど号」関係者の問題の解決のために協力する用意がある旨表明した。これを受け、日本側は、従来からとっている対北朝鮮措置のうち、人的往来の規制解除及び航空チャーター便の規制解除、並びに人道支援物資輸送目的に限定した北朝鮮籍船舶の入港許可を実施する旨表明した。
  2. (b)同年8月11~12日瀋陽にて行われた協議では、調査の目的や具体的態様につき合意がなされ、その後も調整が進められていたが、同年9月4日、北朝鮮側より、突然日本で政権交代(注:福田総理(当時)の辞任)が行われるようになった事情に鑑みて、新政権が実務者協議の合意事項の履行についてどういう考え方なのかを見極めるまで調査委員会の立ち上げを差し控える旨通報があり、その後も上記合意事項を実施しない状況が長く続いた。

(リ)日朝政府間協議(平成24年11月、平成26年3月、5月、7月)

  1. (a)平成24年8月の日朝赤十字会談及び課長級予備協議を経て、同年11月15~16日ウランバートルにて開催された日朝政府間協議において、 拉致問題につき、それまでの経緯やそれぞれの考え方についての議論を踏まえた上で、更なる検討のため今後も協議を継続していくことで一致した。(ただし、12月1日に北朝鮮がミサイル発射の予告を行ったことを受け、同月上旬に予定されていた2回目の協議は延期。)
  2. (b)平成26年3月の日朝赤十字会談の機会に行われた日朝政府間(課長級)の非公式な意見交換を経て、同月30~31日北京にて、1年4か月ぶりに政府間協議が開催され、続く5月26~28日ストックホルムでの協議においては、北朝鮮側が拉致被害者及び拉致の可能性を排除できない行方不明者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査を実施することを表明し、日本側は、この調査が開始される時点で、①人的往来の規制措置、②送金報告及び携帯する届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な措置、③人道目的の北朝鮮船籍の日本への入港禁止措置、を解除することを表明した(合意事項)。(その後、同年7月1日北京での協議で北朝鮮側より特別調査委員会の権限や構成等につき詳細な説明があり、同月4日、北朝鮮による調査が開始されたことを受け、日本側は上記三つの措置を解除。)

(ヌ)特別調査委員会との協議(平成26年10月)

平成26年9月瀋陽での日朝外交当局間会合を経て、同年10月28~29日、平壌において、日本政府担当者と北朝鮮特別調査委員会との間で協議が行われた。同協議では、日本側から拉致問題が最重要課題であること等を繰り返し強調するとともに、調査を迅速に行い、その結果を一刻も早く通報するよう、北朝鮮側に強く求めた。また、北朝鮮側から、拉致被害者等についての調査の方針や現状等について詳細を聴取した。

(平成28年2月、北朝鮮は、全ての日本人に関する包括的調査の全面中止及び特別調査委員会の解体を宣言したが、我が方はこれを受け入れておらず、引き続き北朝鮮側に対し、平成26年5月の合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるよう強く求めている。)

(2)対北朝鮮措置

  1. (イ)北朝鮮は、平成18年7月に弾道ミサイルを発射した後、国際社会からの再三の警告にもかかわらず、平成21年4月、平成24年4月及び12月並びに平成28年2月に相次いで弾道ミサイルを発射し、さらに、平成18年10月、平成21年5月、平成25年2月及び平成28年1月に核実験を実施した。
  2. (ロ)こうした北朝鮮の動きに対し、日本政府は、その都度、一連の対北朝鮮措置を追加的に実施してきた。
     これら一連の対北朝鮮措置の追加及び継続は、北朝鮮をめぐる諸般の事情を勘案して決定したものであるが、北朝鮮が拉致問題の解決に向けて具体的な行動をとっていないことも判断材料の一つとなっている。なお、北朝鮮が平成28年1月に核実験を行い、さらに2月に弾道ミサイルを発射したことを受け、我が国として、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するため、同月、我が国独自の対北朝鮮措置を発表し、実施している。

3.国際社会における動き

(1)拉致問題に対する国際的関心の高まり(国連での取組等)

  1. (イ)北朝鮮による日本人の拉致は、人間の尊厳、人権及び基本的自由の重大かつ明白な侵害である。国連人権理事会においては、これまで9年連続9回(前身の人権委員会から数えると12回)、我が国とEUが共同で提出してきている北朝鮮人権状況決議が採択されている。この決議では、従来、国連北朝鮮人権状況特別報告者のマンデート(任期)を延長することが主な内容の一つであったが、決議の度重なる採択を含め、国際社会の強い懸念表明にもかかわらず、北朝鮮の人権状況に改善が見られないことを踏まえ、平成25年3月の決議で、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況を調査するための国連調査委員会(COI)の設置が決定された。
     同調査委員会は、平成25年8月末の日本訪問に加え、韓国、タイ、英国及び米国を訪問し、証言者からの聞き取り情報等を基に最終報告書を作成し、平成26年3月、人権理事会に提出した。同報告書は、拉致問題を含む北朝鮮における深刻な人権侵害が「人道に対する罪」に当たるとした上で、北朝鮮に具体的な取組を勧告するとともに、国際社会や国連にも更なる行動を求める内容となっている(これを受け、我が国及びEUは、平成26年3月以降の人権理事会において、同報告書の内容を反映した従来以上に強い内容の決議案を提出し、いずれも採択されている)。
     なお、同決議に基づき任命され、マンデートの延長がなされている国連北朝鮮人権状況特別報告者(調査委員会の活動期間中は同委員も兼務)は、平成17年以降、累次にわたって我が国を訪問しており、その結果も踏まえ、毎年、国連人権理事会(平成17年までは国連人権委員会)及び国連総会第3委員会に報告を行っている。 現在は、元インドネシア検事総長のマルズキ・ダルスマン氏が、国連北朝鮮人権状況特別報告者を務めている(注:マルズキ・ダルスマン特別報告者の任期は7月31日までであり,8月1日以降,新しい特別報告者として,アルゼンチン出身でミャンマーの人権状況特別報告者を務めたことのあるトマス・オヘア・キンタナ氏が着任予定)。
     また、平成26年5月、人権理事会の普遍的・定期的レビュー(UPR)作業部会において、第2回目となる北朝鮮の人権状況に関する審査が行われた。同作業部会では、拉致問題を含めた北朝鮮の人権状況について、我が国ほか多数の国々が懸念を表明し、北朝鮮に対してその改善を勧告した。
  2. (ロ)国連総会においても、北朝鮮人権状況決議が、平成17年12月に初めて本会議で採択されて以降、11年連続11回採択されている。国連総会決議も、人権理事会決議と同様、我が国とEUが共同で提出しているもので、外国人の拉致問題を含め北朝鮮の人権状況に深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対し、拉致被害者の即時帰国を含め、問題を早急に解決することを強く要求している(韓国が平成20年より毎年共同提案国に加わっている。また、平成27年の本決議は、前年を上回る119票の賛成票を得て採択。)。特に、平成26年以降の決議は、COI報告書や同年以降の人権理事会決議の内容を反映させた、これまでより強い内容となっており、安保理がCOIの勧告を検討し、北朝鮮の人権状況の国際刑事裁判所(ICC)への付託等を通じて適切な行動をとるよう促している。(同総会決議の採択を受け、平成26年12月及び平成27年12月、国連安保理においても、人権状況を含む北朝鮮の状況が正式に議論された。)
  3. (ハ)日本人以外の拉致被害者についても内外の関心が高まっている。韓国政府は、朝鮮戦争後に3,835名の韓国人が北朝鮮により拉致され、そのうち516名が未帰還であるとしており()、また、朝鮮戦争中にも約10万名が拉致されたとして、現在、真相究明を進めている。さらに、日本へ帰国した拉致被害者などの証言で、タイ、ルーマニア、レバノンでも北朝鮮に拉致された可能性のある者が存在することが明らかになった。このほか、北朝鮮から帰還した韓国人拉致被害者などの証言では、中国人などの拉致被害者も存在するとされている。こうしたことを受け、 関係各国の家族間や民間団体間で連携が行われており、政府レベルでも、関係各国との間で、情報交換を含め緊密な連携を行っている。
     なお、韓国人拉致被害者の中には、日本人拉致被害者と結婚したとみられるケースもある。平成18年5月、横田めぐみさんの夫が韓国人拉致被害者金英男(キム・ヨンナム)氏である可能性が高いことが判明したほか、田口八重子さんについても、韓国人拉致被害者と結婚した可能性も排除できないことから、政府として鋭意調査を進めている。

(注)出典:韓国統一部「統一白書2016年度版」。韓国人拉致被害者の中には、2000年に拉致され翌年に北朝鮮で亡くなったとされている韓国人宣教師キム・ドンシク氏(米国永住権所有者)も含まれている。同事案について、米国のオバマ大統領は、2008年10月(大統領候補者当時)、テロ支援国家指定解除に関し発表した声明の中で、「北朝鮮は、日本人並びに韓国人、そしてキム・ドンシク牧師の拉致に関する全ての問題を解決しなければならない」としている。

(2)その他の外交上の取組

  1. (イ)日本政府は、上記の通り、北朝鮮人権状況決議をEUと共同提出する等、国連総会や人権理事会の場で重要な役割を果たしてきているが、この他にも、G8(又はG7)サミット等の各種国際会議、首脳会談等あらゆる外交上の機会を捉え拉致問題を提起し、諸外国からの理解と支持を得てきている。例えば、平成28年5月のG7伊勢・志摩サミットの首脳宣言では、北朝鮮における人権侵害について遺憾の意が表明され、北朝鮮に対し、拉致問題を含む国際社会の懸念に直ちに対処するよう強く求める、との文言が明記された(G8(又はG7)では、平成15年のエビアンサミット以来継続して、文書の中で拉致問題を取り上げている。)。  
  2.     また、二国間首脳会談でも、従来より、各国から拉致問題における日本の立場に対する理解と協力の姿勢が示されている。米国については、オバマ大統領が、例えば、平成21年4月の東京での演説において「北朝鮮と近隣諸国との完全な国交正常化は、日本人の被害者家族が拉致被害者に関する十分な説明を受けることが前提となる」旨述べており、また、金正日国防委員長死去後の平成23年12月に行われた日米首脳電話会談においては、オバマ大統領が、「拉致問題等の課題についても緊密に連携していきたく、米国の政策は一貫している」と述べている。さらに、平成26年4月の訪日では、飯塚繁雄「家族会」代表及び横田滋・早紀江御夫妻と面談し、拉致被害者御家族の心情への理解と共感を示しつつ、拉致問題における安倍総理の対応を支持する旨述べている。韓国については、平成28年3月末から4月初めにかけて開催された「核セキュリティ・サミット」の際の日韓首脳会談において、安倍総理から、拉致問題をはじめとする北朝鮮の人権・人道問題の解決に向け引き続き協力していきたい旨述べたところ、朴槿恵(パク・クネ)大統領から、韓国にも同様の問題があり、協力してきたいとの発言があった。
  3. (ロ)平成17年9月に採択された六者会合の共同声明でも、拉致問題を含めた懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための措置をとることが、同会合の目標の一つとして位置づけられている。これを受け、平成19年2月の六者会合においては、非核化等と並んで、日朝国交正常化のための作業部会も設立され、さらに、同年9月の六者会合においては、日朝関係について、日朝双方が具体的行動を実施していくことも合意された。
     なお、六者会合においては、北朝鮮が非核化措置を実施することとあわせ、北朝鮮に対して経済・エネルギー支援が実施されることとなっているが、我が国は、拉致問題に進展が見られない限り、六者会合における北朝鮮へのエネルギー供与には参加しないとの立場をとっている。
  4. (ハ)上記のとおり、拉致問題解決の重要性とそのための日本政府の取組は、国際社会の明確な理解と支持を得ている。拉致問題の解決に向けた北朝鮮側の決断を促していくためには、国際社会の理解と協力が不可欠であるとの観点から、日本政府は、今後とも、拉致問題における国際社会との連携を積極的に推進していく考えである

4.国内における取組状況

(1)日本政府による捜査・調査及び情報収集活動

日本政府は、平成14年9月の日朝首脳会談以降も、北朝鮮による日本人拉致容疑事案及び拉致の可能性を排除できない事案につき、帰国した拉致被害者からも累次にわたり協力を得つつ、引き続き所要の捜査・調査及び情報収集活動を進めてきた。この結果、これまで以下のとおり、新たな拉致被害者の追加認定や拉致容疑事案の実行犯の特定等がなされた。また、日本人拉致被害者について、北朝鮮側の主張と異なる内容の情報が種々寄せられていることから、鋭意、分析・確認作業を進めている。日本政府としては、今後も引き続き、所要の捜査・調査及び情報収集活動を進めていき、新たに拉致と認定される事案があれば、北朝鮮側に対し然るべく取り上げていくとともに、実行犯の特定も含め、拉致の真相究明を全力で進めていく考えである。

(イ)拉致被害者の追加認定

捜査当局による捜査・調査の結果、昭和52年10月鳥取県において失踪した松本京子さん及び昭和53年6月に兵庫県において失踪した田中実さんに関し、北朝鮮による日本人拉致容疑事案と判断するに足る新たな証拠等が得られたことなどから、日本政府は、平成17年4月27日に田中実さん、平成18年11月20日に松本京子さんを拉致被害者として認定した。これにより、日本政府が認定した北朝鮮による拉致事案は、12件17名となった。

なお、日本国内で北朝鮮当局によって拉致されたことが明らかになった日本人以外の拉致被害者1件2名(朝鮮籍姉弟)については、拉致は国籍に拘らず重大な人権侵害であり、同時に、我が国の主権侵害にあたることから、北朝鮮側に対し、原状回復として被害者を我が国に戻すことを求めるとともに、同事案に関する真相究明を求めている。

(ロ)拉致容疑事案の実行犯等の特定

捜査当局は、平成18年2月23日、地村夫妻拉致の実行犯として北朝鮮工作員・辛光洙(シン・グァンス)、蓮池夫妻拉致の実行犯として北朝鮮工作員・自称小住健蔵こと通称チェ・スンチョル、同年11月2日、曽我母娘拉致の実行犯として北朝鮮工作員・通称キム・ミョンスク、平成19年2月22日、蓮池夫妻拉致の共犯者として当時朝鮮労働党対外情報調査部対日課指導員・自称韓明一(ハン・ミョンイル)こと通称ハン・クムニョン及び通称キム・ナムジン、平成19年6月13日、石岡亨さん及び松木薫さん拉致の実行犯として「よど号」犯人の妻・森順子及び若林(旧姓:黒田)佐喜子をそれぞれ特定し、逮捕状の発付を得て国際手配を行うとともに、政府として北朝鮮側に身柄引渡しを要求した。

北朝鮮による日本人拉致容疑事案については、これまでにも、平成14年8月以降、原敕晁さん拉致(辛光洙事件)の実行犯である北朝鮮工作員・辛光洙、有本恵子さん拉致の実行犯である「よど号」犯人・魚本(旧姓・安部)公博、久米裕さん拉致(宇出津事件)の主犯格である北朝鮮工作員・金世鎬(キム・セホ)について逮捕状が発付されており、国際手配を行うとともに、日本政府として北朝鮮に対し身柄引渡しを要求している。また、原敕晁さん拉致の共犯者である金吉旭(キム・キルウク) についても逮捕状が発付されており、国際手配を行うなどの所要の措置を講じている

なお、捜査当局は、日本人以外の拉致容疑事案(朝鮮籍姉弟)についても、平成19年4月26日、主犯である洪寿恵(ホン・スヘ)こと木下陽子について逮捕状の発付を得て、国際手配を行っている。

(ハ)横田めぐみさんの夫に関するDNA検査(平成18年4月)

平成18年4月、日本政府の実施したDNA検査により、日本人拉致被害者横田めぐみさんの夫が、昭和53年に韓国より拉致された当時高校生の韓国人拉致被害者金英男(キム・ヨンナム)氏である可能性が高いことが判明した。これを受け、我が方より北朝鮮側に対し、同検査結果を伝えつつ拉致問題解決に向けた誠意ある対応を改めて求めた。なお、韓国政府も独自に同様の検査を実施し、同年5月に同様の結果を得ている。

(2)「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」の施行(平成18年6月)

この法律は、拉致問題をはじめとする北朝鮮当局による人権侵害問題(「拉致問題等」)に関する国民の認識を深めるとともに、国際社会と連携しつつ拉致問題等の実態を解明し、その抑止を図ることを目的として、平成18年6月23日に公布・施行された。
 同法では、拉致問題等の解決に向けた国の責務の他、拉致問題等の啓発を図る国及び地方公共団体の責務、北朝鮮人権侵害問題啓発週間(12月10日~16日)の創設及び同週間における国・地方公共団体の啓発事業の実施等が定められている。また、平成19年7月6日には、政府が施策を行うに際しては拉致問題の解決等に資するよう十分留意しなければならないとの新たな条項が追加された。
 なお、毎年12月には、同法が定める「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」が実施されており、政府として、各種広報やシンポジウム等の行事を行うとともに、民間団体等が主催する国際会議への支援を行っている。

(3)「拉致問題対策本部」の設置(平成18年9月)

  1. (イ)平成18年9月、日本政府は、拉致問題に関する総合的な対策を推進することを目的として、総理大臣を本部長とする「拉致問題対策本部」を設置した。同対策本部は全閣僚から構成され、拉致問題の解決に向け、同対策本部を中心に政府一体となって取り組んでいく体制が初めて整備された。
  2. (ロ)その後、日本政府は、総合的な対策を機動的に推進するため、本部長である総理大臣並びに副本部長である拉致問題担当大臣、内閣官房長官及び外務大臣のみからなる新たな拉致問題対策本部を設置したが、平成25年1月、拉致問題の解決のための戦略的取組及び総合的対策を政府一丸となって推進していくとの観点から、改めて、全閣僚からなる新たな拉致問題対策本部を設置した。
  3. (ハ)同対策本部は、同年1月に第1回会合を開催し、「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの方針を堅持し、認定の有無にかかわらずすべての拉致被害者の安全確保及び即時帰国のために全力を尽くす。また、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引き渡しを引き続き追求していく」という方針と、「対北朝鮮措置の検討、厳格な法執行の推進」、「北朝鮮側による具体的な行動への強い要求」、「情報収集・分析・管理の強化」など8項目の施策を盛り込んだ「拉致問題の解決に向けた方針と具体的施策(PDF:101KB)」を決定した。また、同会合において、本部長である安倍総理は、「私の使命として、私が最高責任者であるうちにきちんと解決したい」との強い意志を表明した。
     なお、新たな対策本部の設置に合わせ、拉致問題担当大臣主催による自由な意見交換の場及び問題意識の共有等の場として「政府・与野党拉致問題対策機関連絡協議会」及び「拉致問題に関する有識者との懇談会」も併せ設置されることとなり、拉致問題をはじめとする北朝鮮情勢をめぐり、これまで随時開催されている。

(4)広報啓発活動等

拉致問題の解決に当たっては同問題に関する国内外の関心を喚起するとともに国際連携を強化することも重要であるとの観点から、政府は、従来より、地方公共団体とも協力しつつ、上記「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」での啓発事業、地方や海外主要都市での啓発行事、DVD・パンフレット・ポスターの作成及び配布、上映会や講演会開催の慫慂、講師派遣及び舞台芸術等の上演等、拉致問題に関する様々な広報啓発活動を実施している。なお、平成23年4月、「人権教育・啓発基本計画」の中に「北朝鮮当局による拉致問題等」の事項が新たに盛り込まれた。
 また、政府は、北朝鮮に残されている日本人拉致被害者の方々に対し御家族のメッセージや拉致問題をはじめ国内外情勢に関する情報をお届けするため、平成19年7月より北朝鮮向け短波ラジオ放送(「ふるさとの風(日本語)」及び「イルボネパラム(朝鮮語)」)を実施している。(注:放送音声はホームページ上でも提供


(5)帰国拉致被害者・御家族への支援

  1. (イ)総理、拉致問題担当大臣をはじめとする政府ハイレベルとの懇談、意見交換の場を設けているほか、拉致問題関連情勢に関する情報提供を随時実施している。
  2. (ロ)帰国拉致被害者に関しては、帰国直後の平成14年11月、「拉致被害者・家族に対する総合的な支援策について」を策定し、同年12月に制定した「北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律」(支援法)と併せて、生活費の支援を含む経済的支援、居住の安定、雇用機会の確保、自立・社会適応促進事業等の支援策を実施している。
     なお、同支援法は、平成26年11月、帰国拉致被害者の高齢化に対応しするとともに、新たな拉致被害者の帰国に向けた準備に遺漏なきを期するため改正された。改正内容としては、滞在援助金の支給対象の拡大並びに老齢給付金、配偶者支援金、特別給付金及び追納支援一時金の創設を措置したほか、現行給付金の支給期間について特例で15年を限度として支給できることとしている。